県大会を研究する'23
ピッコロシアター大ホール至上、最小の舞台!?
オペラカーテンが開いてビックリしたのは、あの大ホールの大舞台で、三六1枚分(横1間×奥行き半間)しか使わない舞台だったこと。これには正直意表を突かれました。ここが小劇場だったなら何の違和感もなく受け入れられた舞台だったのだけど、こんな大ホールでそれをやってのけるとは思ってもいなかったのです(すみません、嘘つきました。東播支部大会で観てたので、そのときにびっくらこいたのです)。
『廻る』は、明石市立西部市民会館(支部大会)→ピッコロシアター大ホール(県大会)→神戸文化ホール中ホール(近畿大会)と3つのホールで観たのですが、どのホールでも狭さを感じることはありませんでした。むしろ、近畿大会の舞台であった神戸文化中ホールは、ホリピットがありロアーホリゾントライトが舞台上から隠れているため、広い空間にぽつんとあるその場がとても印象的でした。
広い舞台を無理に広く使う必要はどこにもない。
その舞台の使い方ももちろん、毎回進化をしているのが東播工業高校の凄いところです。
今大会にこんな作品を持ってくることも想定外でしたが、『廻る』という作品自体が上演を重ねる毎にどんどん良くなっていきました。正直、支部の出来では県を突破するのは難しい感じだったけれど、県では随分良い作品に仕上がっていて、近畿ではホールに合わせた別の演技・演出を見せてくれました。
回転するという可能性!
こんな簡単なことなのに、今まで気づきすらしてなかった。そんな発見をさせてくれたのが、今回の滝川第二高校の舞台でした。たぶん、「舞台は動かない」という先入観が強すぎたのでしょう。
舞台中央に、1間四方の回転する台があるだけで、見せ方が広がります。
写真は生徒会長の出現シーン。後ろ向きから回って登場するということで、時間と空間を使って遊んでみせます。コメディータッチに、「お前だったのか!」という驚きが。
時にはバス停になり、後ろ向きに一旦回転させることで、その間の心の内を描く。時には自転車で淡路島一周する様子を描く。
自分たちの好きなことを詰め込んだ台本と、この回転する台、そして、シーンとシーンの繋ぎは暗転ではなく毎回違う演者が生演奏のキーボードで繋いでいきます。
舞台はこんなにも自由なんだと感じた60分でした。
完全暗転で魅せる!
ピッコロシアター大ホールは、完全暗転のできるホールです。その完全暗転を上手く使って構成された作品が宝塚北高校の『ふとんがふっとんだ!』でした。
完全暗転の中、登場人物たちがやって来る。明かりは役者の持つ懐中電灯やランタンのみ。その手元の明かりを上手に使って、お互いを見せていきます。見えそうで見えない。真っ暗闇を本当に観客も体感する。最初のある程度長い時間は、本当にそんな暗闇で。次第に、暗闇で目が慣れるのと同じように、観客には気づかれないくらいのタイミングと加減で照明が入ってくる。これも観客の追体験になっていく。
お芝居の暗黙の了解で、「本当は暗い場面だけど、照明で見せています」というのはよくやるのだけど、明るくしない(暗いままで、その雰囲気を損なわせない)のが、この作品の凄いところ。
ここまで魅せられると、逆に「どうやって稽古したのだろう?」とそれが疑問になります。
ちなみに『ふとんがふっとんだ!』は、台湾有事後の世界を劇中劇で描いています。
2023年全国大会最優秀賞の徳島県立城東高校『21人いる!』もそうでしたが、戦争が肌感覚として身近にある怖さを感じます。ここ数年で急速に増した、私たちの頃にはなかった感覚。
繰り返すことと変化すること!
台本を書くセオリーのひとつとして、何か特定の物事(動作など小さなこと)を繰り返すということがある気がしてます。そんな繰り返しが効いていたのが雲雀丘学園高校の『滝沢さんと会長くん』。
とある私立学校が舞台の物語で、校内放送でラジオ体操の音楽がかかるといついかなる時も「不純異性交遊禁止・不純同性交遊禁止」と掛け声しながら体操しなければならないという校則がある。現実にはあり得ない大嘘なのだけど、現実的な学校という設定の中に大嘘がひとつというのは、スッと物語として受け入れられるのです。
登場するのは会長と滝沢さんの二人のみ。
真面目な会長は、ラジオ体操の曲がかかると、必ず壇の上で張り切って体操をする。そして、二人のやり取りは幾度となく中断する。
物語の終盤、いつものように突如ラジオ体操の曲が流れ、会長もまた壇の上に移動する。しかし、体操できない事態が発生する。これだけのことで、会長の内面に変化があったことが、観客は感じ取れるのです。
先ほど書いたように「ラジオ体操が流れると体操しなければならない」というのは大嘘なんですが(そんな学校は実際にないですよね?)、そのラジオ体操の音源もクスッと笑ってしまうものでした。ラジオ体操と言えば、「腕を前から上に上げて大きく背伸びの運動から」というフレーズから始まりますが、ここが校長先生と思わしき人物の独特の言い回しに変わっていました。こういう遊びも楽しいですね。
恋愛という題材を、学校と校則という設定を上手く使って扱った作品でした。
自分たちの身近を題材にする
『653−0824』、このタイトルなんだと思いました?
タイトルを見たときにハッとして、凄く上手いなぁと思いました。答えは郵便番号。神戸常盤女子高校の所在地です。演じることはノンフィクションなんだけれども、リアルの延長線上にある2023年のリアリティ。
服飾コースのファッションショーの話を軸に、技能実習生との恋愛の話、教育実習生の目線、在日三世であるカミングアウトなど絡み合ってくる。面白おかしく、でも、シリアスに、それぞれの苦悩や偏見などが顕わになる。
この物語に奥行きを持たせたのは、ベテランの先生でした。演技が素晴らしく、佇まいが“そういう先生いるよね”という雰囲気を醸し出している。だから、居残りさせられている生徒に対する「あなたのような生徒は毎年いる」というセリフが効いてくる。高校生の視界と、大人の視界が交わる瞬間。
そして、もう一つの視界は、教育実習生。
複数の視界が交わることで、劇的に世界が立ち上がっていたと思うのです。
その後のことを少し書くと、約1ヶ月後に行われた近畿大会では、この演技がさらに良くなっていて、とてもビックリしました。等身大ではない人物を演じるということは難しいことだと思うのですが、しっかり演じられていたからこその春の全国出場だったのでしょう。
春の全国大会での上演の様子は、OPENREC.tvにて無料配信されています。是非ご覧ください。
近畿大会のことを少しだけ
2023年の近畿大会は兵庫大会とのことで、兵庫県より滝川第二高校『風は西から』、東播工業高校『廻る』、神戸常盤女子高校『653−0824』(上演順)の3作品が近畿大会へ推薦されました。
そして、近畿大会からは最優秀賞として東播工業高校の『廻る』が選ばれ2024年夏の全国大会への推薦が決まりました。
春の全国へは神戸常盤女子高校『653−0824』が、第23回演じる高校生へは神戸常盤女子高校『653−0824』と滝川第二高校『風は西から』がそれぞれ選ばれました。
そうなんです!兵庫県勢がすべて独占するという快挙を成し遂げました!
兵庫県の創作脚本集をつくっています
私、ユウの自主企画として『兵庫県高校演劇創作脚本集 GIKYOKU!』を編纂しています。
多くの現役生や先生方のご協力もあり、第1号は2023年夏に発行しました。
兵庫県で毎年無数に生み出される創作劇、それらの中には一度の上演で終わらせてしまうにはあまりに惜しい作品がいくつもあります。少しでもすくい取って、多くの人に読んでもらったり、稽古で使ってもらったり、上演してもらったりしようというプロジェクトです。
戯曲というと取っつきにくいイメージがあるかもしれませんが、高校生の紡ぐ物語として捉えていただければ、読み物としても楽しんでいただけると思います。
是非とも兵庫の高校演劇を感じてもらえれば幸いです。
現在、2号の発行に向けて作業を進めています。
1号はこちらのサイトよりお求めいただけます。
(お金のないプロジェクトなので、応援してくださる方もお求めいただけると、とってもとっても嬉しいです!)
※掲載写真の無断転載はおやめください。
※写真掲載については各演劇部へ確認を取っておりますが、問題があるようでしたら「CONTACT」より私ユウまでご連絡ください。