船の上のお芝居

 神戸の海をクルーズするファンタジー号の船内で上演されるお芝居を観てきました。
 もちろん、船で演劇を観ることは初めてで、“どんな感じになるのだろう?”とワクワクです。

 ファンタジー号は、11時~17時まで毎時0分に出港し、45分の航海をする遊覧船。その13時と17時の航海が公演の舞台となっていました。定時運行している中での上演なので、毎回、会場設営と撤収を繰り返しているのです!

 2階建ての遊覧船の2階客室が会場。
 360°のオーシャンビュー。
 客室の真ん中に、向かい合う形で四脚のイスが用意してあって、そこが舞台。照明はなくて、音響のみです。

 お芝居のタイトルは、『港でカモメがやすんでる日はね、千帆ちゃん』。関西の劇作家が書き下ろす「イストワールhistoire」というドラマシリーズの第10話だそうです。今回は、PM/飛ぶ教室の蟷螂襲さんが書き下ろし、同劇団が上演します。

 乗船は、普通の小劇場演劇と同じように整理番号順。
 だけど、お客さんの横をキャスト・スタッフ陣が通り抜けて会場設営に向かったり、2階からお客さんの乗船を覗いていたりと、劇場とは違った雰囲気もありありです。

 お芝居は、ファンタジー号の出航と同時に開演。緞帳もブザーもありません。
 板付きだった役者さんのお芝居が、唐突にはじまります。普通の劇場だったら、完全暗転の中、声がする感じかもしれません。

 航海する船の中での上演。
 面白いのは当然ながら、背景(外の景色)がどんどん変わっていくこと。
 演劇はどこを観るのも観客の自由。
 映像のようなカメラワークはありません。
 だからこそ、好きなところを観られる。喋っている側じゃなく、聞いている側の表情をずーっと観ていることもできる。
 そんな劇場よりも、視線の自由度は上がります。

 このお芝居の主人公は千帆ちゃん。千帆ちゃんは、水先人を目指しています。

 「水先人」っていうのは、知らなかったのですが、日本の国家資格のようです。水先案内人のことと思っていいようです。

 そんなお芝居の序盤のハプニング。
 私は船尾を向いて座っていたので気づかなかったのです。神戸港の沖で、ファンタジー号が停泊。“そういう演出なのかな?”と思っていたら、船尾方向からやってくるタグボート。ファンタジー号の横を、巨大な貨物船が通り過ぎていきます。あまりの巨大さに唖然とします。
 このお芝居は神戸が舞台のお芝居ですが、正にそれが目の前に現れたのです。劇中の世界と現実の世界が交差した瞬間。
 こんなことが起こりえるのも、本当に航海している船だからこそ。

 そして神戸沖を周遊し、出航した中突堤に戻ってきた頃、見事に終演。

 なんだろう。
 この着岸のときのために、船内でお芝居をしていたような感じがします。ここに全て集約されたような……。
 たぶん、このときめきは、劇場では得られなかったでしょう。

 船が着いたことは、観客全員が体感したことなのですから。