高校演劇ZINE
世の中に『高校演劇ZINE』なるものがあるらしい。
そのことを知ったのは映画『アルプススタンドのはしの方』がキッカケ。公式さんのリツイートの中に、『高校演劇ZINE』が混じっていた。
【お知らせ】#ラジオEXPO で発売した #utamaru #アトロク #高校演劇ZINE を赤坂と東京駅のTBSストアで販売することになりました。価格は1100円(税込)です。お近くにお立ちよりの際にはぜひ手に取ってみてください。 #tbsradio #まくむすび pic.twitter.com/L7iS2QOyz3
— 澤田 大樹 (@nankuru_akabeko) July 15, 2020
高校演劇への熱い想いが溢れてる!
このZINE(ZINE・ジンとは自主製作による小冊子の意)は、TBSラジオの澤田大樹記者が中心となってつくられている。
澤田記者も、巻頭でインタビューを受けているTBSの日比麻音子アナウンサーも、高校演劇出身者。しかも両者とも、どちらかというと高校演劇界の日陰者。日比アナは、当時を「暗黒時代」と言う。
高校演劇の時って、もうなんかよくわかんないけど、とにかく作りたい。とにかく何とかして舞台をやりたいっていう、ピュアで真っすぐで、すごい負けん気な気持ちってのがあったから多分楽しかったし、きつかったし、つらかった。
日比アナの演劇部は指導者がおらず、部員たちだけで頑張っていたよう。「高二の先輩が絶対的な神、高三の先輩はもっと上の存在・全能の神ゼウス」なんて聞くと、“どんなブラック部活だよ!”と突っ込みたくなるが、相当演劇が好きなのは、上の言葉に表れている。
先輩の演じた『夏芙蓉』に惚れたり(あれは衝撃的だ!)、蜷川幸雄や野田秀樹の舞台を観に行ったりと(それは東京という地理の利があるとは言え)勉強熱心さが伺える。
このピュアさ。
“今の淡路支部にあるかなぁ?”と感じてしまう。この真っ直ぐさ。高校生である時間は短くて、だけど特別で、その中でしかやれないことっていうのは(高校演劇に限らず)確かにある。
だから、それに気付かせてくれる大人や、サポートしてくれる大人の存在は大事。
もしかしたら、それを正直に出せてないだけなのかもしれないけれど。
私的には、高一の時に『女子高生症候群』(オリジナルは県立日高高校だ!)を練習し、しかし、インフルエンザで大会は開かれず、舞台に立てなかったというエピソードが心に沁みる。
『夏芙蓉』もそうだが、『女子高生症候群』も生半可な気持ちで演じられる作品では無い。
2019年の全国大会(佐賀総文)が内容の中心
このZINEができたキッカケは、澤田記者の佐賀総文への取材だろう。
私は総文祭に行ったことがない。演劇部員時代は地区大会どまりで、県大会すら観に行ったことがない。優秀賞のテレビ中継も羨望とともに嫉妬のまなざしで観ていた。
こんな演劇部員が、どのくらいいるのか私は知らない。でも、当時の澤田記者は、相当ひねくれていると思う(笑)
そのひねくれ具合は、以下の文にも現れている。
地方の男子校の弱小演劇部員だった私。在学当時は「面白さ」こそが「高校演劇」のすべてであり、近所の女子校が上演していた作品に「小さくまとめやがって」と毒づいていたものだった。ただ、十数年ぶりに女子校の演劇を観て考えを改めさせられた。男子校の演劇が、一部の役者のギャグや勢いで推進力を生み出すのに対し、女子校の演劇は、役者それぞれの個性を合わせて、一本の太い幹にして、統合していくタイプの芝居なのだと気づかされた。
澤田記者が全国大会で観た女子校の演劇とは、大谷高校(大阪)の『ふじんど』だ。
決して、男子校の演劇がギャグや勢いばかりではないのだけれど、女子にはないパンチ力を持っているのは確かだ。女子の演劇は繊細さで描くことも多いが、女子ならではの怖さを感じるものもある。双方違った魅力があるし、女子ばかりの演劇よりも、そこに男子が加わることでスパイスが効くこともある(しかし、男子校や女子校のように、同性のみでしか描けない魅力的な演劇もある)。
高校演劇には地域性もある。
兵庫と大阪なんて隣同士で、神戸と大阪(梅田)なんて電車で30分なのに、全然違う。凄く不思議。大谷高校のようなお芝居は、兵庫県の女子校では出て来ない。
澤田記者は「あの頃の自分とハイタッチできない」と言うけれど、こんなZINEまでつくったんだ。“どれだけ衝撃受けてんだ!”って思う(笑)
さて、ZINEに収められている記事は、どれも興味深く面白い。
現役部員の記事がないのは残念だけど、2019年の全国大会出場校の中から、帯広北高校、新座柳瀬高校、逗子開成高校、日本大学鶴ヶ丘高校、屋久島高校の顧問・コーチの寄稿文がならぶ。
「高校演劇嫌い」であったり、「高校演劇出身」であったり、「学祭での演劇が出会い」であったり、おそらく教員になり演劇部の顧問となったのが出会いであったりと、様々。けれども、全員が演劇への想いに溢れている。
全国を飛び回る高校演劇ファンがいた!
そんな中で異色なのは、「年間60日を高校演劇観劇にささげる」という一般人の青谷まもみゃさんのインタビューだろうか。
なんと驚くべきことに、青谷さんは高校演劇とまったく無関係の人なのだ。大学生の頃に演劇を観るようになり、小劇場演劇から高校演劇にシフトしたという。キッカケが渡辺源四郎商店の『さらば!原子力ロボむつ ~愛・戦士編~』(本文では『跳べ!原子力ロボむつ』と書かれているが、『もしイタ』を同時上演していたとの話なので、2014年の『フェスティバル/トーキョー14』のこちらの公演だと推測される)やままごとの『わたしの星』あたりらしいから、歴は6年ほどだろうか。全国大会のみならず、ブロック大会や地区大会を観るために全国を飛び回っているという。脱帽だ。
全国大会というのは、高校演劇の氷山の一角に過ぎない。
県大会レベルでも、本当に面白い作品や凄い作品はあるのだけれど、ほとんどは全国大会へ進めない。なぜ?って、北海道・東北・関東・中部日本・近畿・中国・四国・九州という各ブロックから基本的に1校しか全国大会へ推薦されないからだ。これはかなり狭き門である。
青谷さんのように色々観たくなるのは当然なのだけど、実行できるのは本当に凄い。
8/19のアトロクは高校演劇特集!
【告知】19日(水)20時〜の #アトロク #utamaru は「 #高校演劇 特集2020」です。新型コロナウイルスの影響で高知での開催は見送られましたが、今年は #WEBSOUBUN として各校の作品をスマホやパソコンからご覧になれます。是非ご覧ください! #まくむすび #こうち総文 https://t.co/O09BLos9ww
— 澤田 大樹 (@nankuru_akabeko) August 12, 2020
なんと、8月19日(水)20時からのアトロクは『高校演劇特集2020』だそう。
TBSラジオなので、関西からはradikoプレミアムなら聴けますね。
でも実は、2018年の特集はwebから聴けるので、もしかしたらあとから聴けるチャンスもあるかも知れません(このとき日比アナが『女子高生症候群』を出してきたので、私はびっくらこいた)。
気になる方は下記のリンクからどうぞ!
2020年▶神シリーズ「高校演劇」特集・2020年夏。ついに放送【澤田記者が徹底取材】
2019年▶高校演劇の最新状況がやっぱりエモい【ブーム到来】
2018年▶「高校演劇」でしか表現できないエモさ、とは何か?【幕が上がる】
2019年放送分、2020年放送分を追加しました。
淡路支部は「井の中の蛙」である。
行ってみたら、全国大会ってやっぱり面白くて。上演もそうなんですけれど、その中で生徒講評委員会の活動があって。それが一般の人も聞けるよという状態だったので、ずっと張り付いて聞くようにしてたんですけれど、観る側の自分としては、この活動はなんて面白いんだってなって、非常につかまれた。はまっていくのが確定した瞬間みたいな感じです。演劇の中で「観る」っていう部分は重要だよって、演劇をやってる人たちも誰もが言いつつも、なかなか整備されていない状態だなと思っていて。ただ、生徒講評はその部分に本当に真剣に取り組んでいるんですよね。
先ほどの青谷さんは、高校演劇にはまった瞬間を、生徒講評委員会だと言う。
演劇は、誰と観に行くかで見方や印象がまったく変わってしまう。
人の意見というのは、自分が“つまんない”と思った作品の評価を180度変えてしまうときがある。その作品が(人との会話によって)本当に見えたとき、自分の心が変わっていくのを感じる。
演劇には観ている瞬間の感動もあるが、観終わったあと一緒に観た人と作品を語る中で氷解していく感動もある。
生徒講評は、真剣にいま観た作品を討論する場だ。
その内容は、専門審査員による講評に勝るとも劣らない!
淡路支部は、確かに地理的には不利だ。
演劇は、劇場で、生で観劇してこそ意味がある。多くの演劇を観ることで、見えてくるものも確かにある。
しかし、その他にもいろいろ方法はあるはずだ。この高校演劇ZINEを読むことだって、「知る」ことにはつながる。
どうか、井の中の蛙から一歩、踏み出して欲しい。
『高校演劇ZINE』の通販はできないそうです。手に入れるには、(売り切れる前に)東京へ行くか、東京近辺の親戚・知人等に頼むしかありません。私は運良く、友人に手に入れてもらうことができました。