『あの日のこと』卒業公演
予算がなく、ホールを一旦キャンセルしていた卒業公演。しかし、藤代さんの「やりたい」という気持ちで全てがはじまった。
台本も藤代さんが「書く」という決意を固めていた。
段取りが悪かったのは否めない。12月の打合会には三原高校のみ参加。津名高校は1年生が「数名参加出来るかなぁ?」という状況。年明けの練習日にも、台本はほとんど完成していなかった。
けれど、やっぱり想いが強かった。
参加することになった三原高校、津名高校だけでなく、藤代さんの友人たちも出演することに。学校の枠を越え、洲本高校からも出演してくれた。
台本が完成したのは2月上旬。それまでは、ずっと読み合わせの日々。潤色をすることになり、潤色稿の脱稿がそれから2週間後。その間も、読み合わせをするだけだった。けれど、その場で藤代さんが「どうしてこの作品を書いたのか」、その想いは伝えられた。
本格的な練習がはじまったのは、各校の期末考査開け。つまり3月上旬。公演日までは3週間を切っていた。
不安要素はそれだけではなかった。
藤代さん自身がキャストを決めるに当たって揺れていた。
どうしてもキャストが足りないのだ(人数的な意味ではなく)。それまでの読み合わせで、1人足りない事態となっていた。他にも色々声を掛けたりしたそうだが、上手く行かなかったようだ。
結局、キャストは仮決定していたものの、本番2週間前まで揺れ続けることになる。
3月に入り、立ち稽古。
そこからは急展開だった。
手伝ってくれることになった3年生2人は初舞台。1年生3人のうち1人も初舞台。演劇経験豊富なのは、作・演出の藤代さんと2年生1人だけだった。
ところが、3年生の2人は演技が上手かった。たった1、2年の人生経験の差だが、ここまで違うのか?というほど。そして、1年生の2人も急成長を見せる。熱い空間となっていく部室。
しかし、期待していた2年生が結果を見せてくれない。演じられない。苦しい展開に。
ひょんなことから、OBの大濱くんも部室へ通い出した。みんなの想いが一つになり始めた。
厳しい言葉も飛ぶ。特に最後の1週間は、それまで見えていなかったこの作品の深みの様なものが一瞬、見え始めたこともあった。そんな深みに気づき、演じ られず苦しむシーンもあった。たったひと言のセリフが言えないのだ(そう、それがとても難しい)。良い意味の苦しさ。
本番も、……結局、苦しかった。これは悪い意味。
期待した2年生が、結局、何も変わらなかった。
最初は乗り気でなかった1年生たちも、そして友情出演の3年生たちも、それぞれが変わっていった。それは、藤代さんの想いを受け止めたこともある。深みの苦しさの向こうにあるものに気付いたこともあるだろう。
「良い公演だった」と言うのは簡単だ。
実際、私もそう思う。打ち上げでほとんどの者たちは、本気で舞台に向かった顔をしていた。
けれど、純粋に良い公演だったかは疑問だ。2年生の彼女は周りを見ずに、自分だけを見てしまったのだから。彼女には、それを乗り越える努力をして欲しいと願う。人の想いは大事だし、そうしなければ、本当の意味で演劇は見えてこないと私は思う。
良いお芝居は「良かったね」だけでは決して終わらない。
そこには必ず悔いがある。その悔いこそが、次に向かう何かになる。そうして人は成長していく。
翌日──。
部室で後片付けをする彼らの姿。それを見て急激な淋しさが私を襲っていた。
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あの日のこと
CAST
- 小山今日子
- 平井美織
- 2年三
- 北野 恵
- 中尾沙柚
- 3年洲
- 内田 健
- 泉 博貴
- 3年助
- 立花 南
- 〆田京香
- 1年津
- 林 亮司
- 木本 新
- 1年津
- 中川竜城
- 奥田敏史
- 1年津
- 女生徒
- 藤代明香
- 3年
STAFF
- 演出・作
- 藤代明香
- 潤色
- 鈴木 遊
- OB
- 舞台監督
- 稲永博和
- 顧問
- 照明
- 喜田祥隆
- 2年三
- 音響
- 桃井新斗
- 1年助
- アナウンス
- 泉 博貴
- サポート
- 大浜直希
- OB
- 制作
- 藤代明香
泉 博貴
中尾沙柚
- 制作協力
- 村瀬江美
宮下貴江 - 3年助
3年助
- 助:助っ人
- 洲:洲本高校
- 津:津名高校
- 三:淡路三原高校
STORY
3学期。放送部の部室。そこへ集まってきた、引退した3年生たち。
その場にやって来た別の3年生の北野。彼女は、写真を探しに来たのだという。彼女の両親が、ここの放送部の部員だったのだと。
北野が放送部の部室へ来た本当の目的は──?
受験、進路、将来、不安、希望……。
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